事象の地平線
文:椛田ちひろ

"あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpointsいま「描く」ということ"カタログより
(2012年1月、横浜市民ギャラリーあざみ野発行)

      

 

見えないこと。それは想像力をかき立てさせる。
見せないこと。それは見えている時以上の存在を感じさせてくれる、ひとつの方法だと考える。

見せないというネガティブなことによって作品を成立させようとする時、想像力を喚起させるには相応の入口が必要だ。
私は、その入口に絵画を選ぶ。
私は、鑑賞者に想像力を働かせることを強く要求する抽象絵画をこそ、この入口に相応しいと考える。


「絵画」という形式でこのことを体現しようとするとき、「対象」を描いた途端、想像の域が限定されることに注意しなければならない。
例えばスケールであるとか、時間といったものが。
だが求めるべきはそうした尺度すらも超越する、想像に難いほどの存在へ到ることの出来る、想像力である。

だから私は、「対象」を描かないことでその限定から解き放つ。

私は何万本もの線をひきながら、何かを描くということを一切しない。
私が引く線は、決して越えることのない地平線としてのみそこにある。
私も、鑑賞者も、そのボーダーを決して越えることは出来ない、絶対の地平線である。